『それを世界と言うんだね』 綾崎隼
同名の楽曲の世界観を参考に書かれた小説。
あらすじと雰囲気が好みどんぴしゃで思わずに手に取る。
あらすじ
記憶を失った少女は不思議な世界で目を覚ます。
そこは物語の中で不幸になった者だけが、最後にたどり着く場所。
少女は自身の正体に疑問を抱きながらも、不幸な物語の結末をハッピーエンドに変えるべく、「物語管理局」として「マッチ売りの少女」や「裸の王様」など、様々な物語の世界へ飛び込んで行く。
数々の物語を経て少女がたどり着く、自身の正体と”この世界”の成り立ちとは……?
「答えが見つかったら、一緒に行こう。君がこの物語を変えるんだ。」
声を大にして言う、世界観が良い
知らない世界で目を覚まし戸惑う少女に対し、自らを王子と名乗る少年が告げる。
「ここは物語の中で不幸になった者だけが、最後に辿り着く場所なんだ。」
冒頭のこの一言だけで、きっと素敵な物語に違いないと胸が高鳴る。
少女と王子はなぜこの世界に辿り着いたのか。
彼女たちにとっての幸せとは何なのか。
と、想像が自然と掻き立てられていく……!
加えて大好きな『いなくなれ、群青』という小説の舞台である、”どこにもいけないもの”が集まる階段島のことを思わず思い浮かべる。
さらに、童話の世界に入り込み、結末を変えていくという展開もとてもわくわくする。
「マッチ売りの少女」や「裸の王様」といった、誰もが知る物語がどう変わっていくのか。
気になってページをめくる手が止まらず、一気に読み進めてしまった。
また今まで触れてきた物語の世界に入るなら、どの小説が良いかなと夢想してしまう......。
さらに物語の登場人物を救うと言っても、好き勝手に介入してもよいわけではなく、ある程度は話の筋に沿う必要がある。
例えば「裸の王様」で言えば、王様と詐欺師が出会うのを阻止すれば悲劇は免れるが、それでは「裸の王様」ではなくなってしまう。
いかにして正典に沿った形で彼らを救うのか、というのが本作の魅力のひとつ。
裸の王様として群衆の前に立ちながらも、その自尊心を傷つけずに救う方法が、とても鮮やかで印象に残る。
明かされる正体と世界の成り立ち
そして、何よりも主人公の少女と王子の正体が明かされたとき、思わず息をのんだ。
それまで点だった出来事が一気に線でつながり、この世界が何だったのかが、ゆっくりと輪郭を帯びてくる。
この世界はたったひとりのためを思って作られた世界であり、優しさで満ち溢れていたことを知り、思わず胸が暖かくなる。
疑問点がすべて明かされたとき、小説を読んでいて久しぶりに「そういうことか」と思わず天を仰いでしまった。
不幸な登場人物を救うという本作の世界観も相まって、優しさで溢れる物語だった。
思わず、これまで触れてきた物語の登場人物たちの「その後」を思い浮かべる。
日常生活のふとした瞬間に、目を閉じれば彼らの息づかいが聞こえるようで、物語も登場人物たちも、いっそういとおしく感じられた。
以下、ネタバレ含みます。未読の方はご注意ください。
完全に本作を読んだ方向けの感想です。
開口一番、重要人物の正体に触れているので、未読の人はまず小説を読んでほしい。
素晴らしい読書体験を失ってほしくないので。後生だから……!
ネタバレ感想(クリック、タップで表示)
王子の正体、完全に予想外でした……!
話の流れ通り、素直に「人魚姫」の王子ではないだろうな……と身構えてはいたのだけれど、まさか童話作家のアンデルセンだったとは……!
もしかしたら、王子は悪者かもしれないと当てずっぽうな予防線すら張っていたのに!
彼の正体を明かされて初めて作中に登場した童話がすべてアンデルセン作であったことを知るという……。
有識者であれば、作中に登場する物語はアンデルセン作品群であると早々に気づくものなんですかね……?
また作品の登場人物たちが、孤独な作者のことを思って作り上げた世界だったというのがとても良すぎる。
真意の読めなかった氷の女王と親指姫のやり取りも、「不幸な登場人物を救いに行く」という仕事も、すべてアンデルセンのためだったなんて。
不穏な雰囲気から一転して、大団円で終わったので本当に心晴れやかな読後感。
そしてアンデルセン作品キャラクターが一堂に会するというとてつもないお祭り状態であったことに気が付く。それだけ数々の作品を世に送り出し、今もなお読み継がれているのだということを、改めて感じ入る。
個人的な趣味で、各作家作品のキャラクターを集めた世界を覗けるのであれば、河野裕作品や西尾維新作品の登場人物が集まる世界を見てみたい。入りたいとは思わない、見るだけでいいので。


